事業・相続
株式の相続の場合
被相続人が株式会社や有限会社の株主の場合は、株式が相続の対象となります。
株式を相続した相続人は、会社または株主名簿管理人(主に証券会社か信託銀行)に対して、株主名簿の名義書き換え手続きを請求しなければ、権利を行使する事ができません。被相続人が株式についての取引口座を開設している場合は、当該取引口座について相続人名義の口座へ移管の手続きも必要となります。
相続人が複数存在する場合は、たとえ株式が複数株(例えば100万株)有ったとしても、相続分に応じて具体的に何株ずつと分割されるのではなく、株式全体をひとつの財産と考え、それぞれの相続分の割合で(準)共有となります。
したがって、遺産分割協議等で特定の相続人に相続させた後、株主名簿の名義書き換えをするか、株式の権利を行使できる者を共同相続人の中から1人定めて会社に通知をしいなければ、権利を行使する事ができません。
被相続人が持分会社(合名会社、合資会社、合同会社)の社員の場合は、社員の死亡は退社事由になりますので、出資の持分は原則相続の対象にはなりません。ただし持分会社の定款で死亡した社員の相続人が持分を相続する旨の定めがある場合は、相続される事になります。
出資の履行が済んでいない場合は、相続人が会社に対して出資の義務を負いますので、さらに注意が必要です。
不動産などの財産を会社名義で保有している場合は、株式の名義を書き換えるだけで足り、いちいち個別の財産について名義を書き換える必要は生じません。
したがって、会社組織であれば相続手続きを比較的容易に行うことができますが、故人が会社役員の場合は死亡によって役員を退任しますので、後任の役員を株主総会等で決定する必要があります。一方、個人事業主の相続の場合は、一般個人の相続と変わりはありませんので、相続財産ごとに個別の手続きが必要です。
事業経営している場合、共同相続人同士で事業用資産は細分化してしまうと、経営が難しくなる場合があります。したがって不動産など財産を特定の相続人名義にした方が良い場合があります。その場合は相続放棄手続きであるとか、遺産分割協議書を利用する方法が考えられます。相続放棄手続きは家庭裁判所に相続放棄の申述書を提出する必要がありますし、遺産分割協議書は相続人全員が署名押印した印鑑証明を添付して遺産分割協議書を作成する必要があります。
これらの手続が煩雑であるということであれば、民法903条に規定する特別受益者の制度を利用して、相続分不存在証明書を作成する方法もあります。被相続人から生前に生活費や学費など多額の財産的援助を受けた原因を記載したうえで、実印を押印し「被相続人から生前に特別受益を得ているので、相続分はありません。」という趣旨の内容を書く証明書です。この証明書を作成した相続人は、被相続人のプラスの財産を相続しない事になります。
但し、相続人の地位はそのまま残りますので、被相続人が負っていた義務については、引き続き履行しなければなりませんので、注意が必要です。